アリィの挑戦

今日はアリィの誕生日でしたね。

 

誕生日に強くなりたいといったアリィはガラル地方に来ることになった。

山なんてもっと有名な場所はごまんとあるが、体調を考慮して10番道路の雪道を選んだのだが…

 

 

 

 

自前の板切れをスノーボード代わりに雪の斜面を一筆書きのように滑るアローラのピカチュウ。ゲレンデの客を左右へと巧みに流すようかわし、ゴールの麓でボードごと体を捻るようにしてブレーキをかけるとゴーグルを外した。



アテナ「ふー!やっぱりバカ広いところで滑るのは良いね!これで自由な姿で滑れたら完璧なのに!」

 

ファルト「ついでで連れて来て貰ったんだ、文句は言うまい。」



入場ゲート横のカフェでリトと共に滑るヒト達で賑わってるスキー場を見学しているファルト達の元にアテナが戻ってきた。

 

アテナ「分かってるよ。アリィには感謝だね」

 

ファルト「そういえばジョウは見当たらないがどこへ行った?」

 

リト「ガルシアさんが教えてます。スキーは行軍の基本だとか…」



リトが顔を上げ、アテナ達がそれに釣られた。丘の向こう、木々を切り開いて作られた雪原の方には人混みに紛れて大きな茶色の塊が特に目立った。誰もがガルシアだと特定して頷いた

 

ユディー「あ、ああああああああああ〜〜!!!」

 

なんとも情けない叫び声を上げ、巻き込まれないよう滑っていた者が大慌てで避けていく。「ころがる」を何度も繰り出して最大にまで強化した技の如く、巨大な雪玉が斜面の雪を滑り集めながら転がってきた。ゲレンデから外に飛び出すのを防ぐために二人掛かりで真っ白なヒヒダルマが雪玉の前に立ち塞がり、横からこの地方特有の氷の針を宿したサンドがアイアンヘッドで雪玉を破壊した。崩れた雪の塊には目を回したリザードンが入っていた。




ユディー「はひぇ………;」



ファルト「そうはならないだろう」

アテナ「なっとるやろがい。…ユディーはスキーが下手だからなぁ」





アテナ「そういえば、ドンは?」

リト「今頃登り始めたと思うわ」








10番道路の雪道から外れ、住居を持たない野生のポケモンでも滅多に通らない雪原に大きな足跡が続いていた。



ドン「寒いかアリィ?」

アリィ「大丈夫。まだ懐炉はいらない」

ドン「上はもっと寒くなるぞ、今のうちに封を切っておけ」



重さで足が雪の中に入り込んでしまってもお構いなく突き進む。背負ったバックパックを椅子代わりにしてドンの頭の後ろでしがみついたヒトカゲがニットの雪を払って被り直した。




アリィ「……てっぺん見えない。」

ドン「上はもっと雪が降ってんだろうな。それにそこまでは登らないから大丈夫だ。」



ドンも自前の肉体だけでなくリトに編んでもらったオレンジのマフラーと金属ではなく、絹で編んだチョッキを身に纏いゆっくりと降り積もる雪で遠くが白くなりつつも止まることなく進む。足場が次第に斜面になり、雪が積もることなく岩肌が見えた垂直な崖は遠回りすることなく自ら鍛えるように腕と足で直接「ロッククライム」で越えていく。

 

アリィ「パパは大変じゃないの?こんな山登って…」

ドン「そうでもないさっ!アリィが強くなりたいって言ったんだからここに来たんだ、元々山登りは好きだからな!」

 

白い息を吐きながら頭上の崖に捕まり、腕だけで登り切った。雪を払い、不安そうなアリィとは相対的にすぐに登山を続けるドンの表情は楽しそうだった。

 

夢中で登り続け、崖の下に上手く床が降り積もらない場所へ辿り着くと背中のアリィを下ろし積もった雪の上に倒れ込んだ。尻尾の玉から頭の先までしっかりと巨大なドサイドンの跡が生まれた




ドン「ふぅー、今日はここでお休みだ。明日から特訓を始めるぞ!」

アリィ「うん。キャンプするんだね。」

 

ドン「ああ、テントを張るから少し待っててくれ。」



ドンのキャンプを設置する手なりは見事なものだった。アリィが自分のポーチから持ってきたシャボン玉を取り出した頃には既に自力で杭を押し込み、タープが建てられ、「ロックブラスト」の要領で杭を岩肌に打ち込んだと思えばポールを通して、生地が貼った三角屋根の建物が出来上がった。早回しの映像の如く動き回る巨漢の様子にアリィは口をあんぐりと開けてその場に立ち尽くしていた。



アリィ「…….まだ遊んでない。」

ドン「あれ?」








アリィ「……シャボン玉凍っちゃった。」

ドン「お湯を一気に撒くと霧にもなるぞ。」

 

組み立てたテントの前で凍らせたシャボン玉を手に駆け寄ってきた。それを見たドンがバックパックからワイヤーで円を作り、アリィよりも大きな玉を作って頭に被せてやると嬉しそうだった。アリィにとっては初めて二人きりで遊んだ…と言っても過言ではない。

ジョウのように丈夫な体ではないため、遊ぶだけで怪我をさせる恐れがあるからだ。そのせいで、今日まで親子なのに距離感が生まれてしまっていた。

ドンもそれを埋めようとアリィにはいつも以上に繊細に腕を動かしている。冷気で凍ったシャボン玉を割らないようにアリィに乗せることが出来たのはそのお陰だ。

シュートシティを見下し、沈む陽で黄金の雪原へと変貌する景色を眺めながら夜を迎え、わかせていたお湯をドンが鍋で巻き、急激な温度差で真っ白な霧へと変わった様子には大変喜んでいた。




ドン「夕飯は……俺が作る、と言いたいが前に言ってたよな?」

アリィ「軍隊のご飯いいの!」

 

この為に持ち込んできた戦闘食…レーションを見せるとアリィが興味を示し、尻尾の炎が激しく揺れ、目を輝かせた様子は初めてみた。

一日分の食事をパッケージ化した、子供一人収めれそうな箱からカラフルに食べ物の絵がついた缶詰やビスケットが次々と出てくる様子は食べ物の詰め合わせにも思えるだろう。大柄用なのもあってサイズも圧巻だ。

軍と兵站部の何百年もの経験と実績。民間やホテルの料理人にも協力を得て生み出された箱はポケルディアの技術の結晶と言っても賜物ではない。

 

簡易的な組み立て式のコンロを足と手で組み立てて、自分の力で固形燃料に火を付けて缶を温めるのはまるで自分が料理をしている気分だった。シェルパスタが詰まったミートソースとオレンジのジャムを付けて食べるビスケットを分け合いながら完食。手料理には及ばないが、この日に食べた物は別格で、幼いアリィには思い出になるだろう。

アクセサリの歯磨きガムを噛み締め、辺りが暗くなった頃にはテント内の空間作ったハンモックの上にアリィを寝かせていた。



ドン「……ポケモンバトルは肉体を鍛えるだけじゃなく、精神も強くなくちゃいけない。すぐに技の力が無くなってパワーダウンどころか同じ技でも技の攻め合いで撃ち負けやすいからだ」

 

アリィ「うん。」

ドン「まずは自信を持つ事と体力を付けることから始めよう。」



灯が消え、ヒトカゲが灯した命の炎がテント内の影を揺らす。見下ろせばドンが目を閉じて動かずにいた。

上から見たのは初めてかもしれない。

荷物を隅に寄せ、中央で足を広げているその巨体を見ていると身体が、ドンに何かを求めるように飛び降りた。

 

ドン「…!落ちたのか」

アリィ「ううん、一緒に寝たい。」

ドン「潰してしまったら大変だ。ダメだ」

 

盛り上がったお腹の上はガルシア程ではないが柔らかかった。その感覚にドンが顔を上げ、アリィをつかみ上げようとするが、その腕に抱きつかれてしまった。

 

アリィ「危なくなったら自分から離れるから…今日だけ。」

 

ドン「…………。」




全身で腕に抱きつく小さな姿に、父親として愛情をと揉められている。そんな考えが頭の中に過り何も言えなかった。強くなりたいのも、火を吐けるようになりたいのも全部建前で、本当はこうやって一緒に居たかったのではないか。

未だに親になれずにいる自分と強くなり続ける事で感じたもの。もしかして、リトやジョウ…出来てしまった家族のなかで一番孤独感を感じているのは自分ではないのか?

複雑な事が何重に頭の中で巡ってよく分からない感覚に陥っていたが、アリィが求めていたヒトとしての温もりはドンも確かに持っていた。










先に目覚めアリィが、ドンを乗り越え、テントをの口を開け、室内の空気をかき混ぜるように極寒の冬風が入り込んだ。あれからお互いに背を向けて寝転がっていたようだ。特に怪我もなく、いつも以上に快適に寝られて寝起きも快調だ。

 

アリィ「うわぁ……足跡消えてる…!」

 

ドン「寒い……しめてくれ;」

アリィ「技の練習してくれるんでしょ!」




天井に吊るしたヒーターを揺らして日差しから逃げるようにさらに寝返る。つのドリルを掴み取ってぶら下がり、揺らして無理矢理起こして。

登山前にリトに用意してもらったガラル地方のスパイスときのみを使ったカレーを温めてテントを後にした。

 

設営したキャンプから反対側に回り込むように登山したのは練習の際ドンの行動で雪崩が起きた際に備えてだ。頂点への道付近は穏やかな上り坂で、北に見える10番道路とワイルドエリアの双方が一望できた。

今回は景色を見たのでは無い、すぐにドンが腕に詰めた「ロックブラスト」で岩製の杭を並べるように打ち込み、最後に当たりの雪をかき集め大きめの雪玉を作った。



ドン「まずはたいあたりの練習からだ!」

アリィ「…アリィもうできるよ?」



ドンが肩口から雪玉に突っ込んで粉砕、白く染めた半身を払いながらアリィを招き寄せた

 

ドン「基礎の基礎だ。それに此処でこそやる意味がある」

 

ドン「アリィと同じ重さの的を用意した。まずはトライだ」



いきなり頭や身体でタックルをさせるような姿勢はさせず、目標まで走ること、的の杭を両手を使って押すように練習させる。このような事をさせる意図がよく分からず、三度目のたいあたりを終えて助走をつける頃に変化は起き始めた。

いつも以上に息が続かない。既に10回は繰り返したような疲労感と喘息で手頃な石の上に座り込んで深呼吸した。酸素を取り入れて尻尾の灯火が強まったのがわかる。



アリィ「はぁ、はぁ….いつもより、大変……!」

ドン「足場が違えばまた違うだろ?それに此処は高いからな…」



高い所ほど酸素濃度が薄いのなら、負荷をかけるには最適の自然が作り出した環境だ。リスクはあるが、体力もないアリィにとって短期間で強くなるならもってこいの場所だ。なんども練習と休憩を繰り返し、お昼過ぎにはドンと雪だるまを作って遊ぶだけでも十分すぎるほどの特訓になる。

目玉変わりの石ころを頭のてっぺんから押し込こんで、ドンと同じか大きさの雪だるまから飛び降りドンに抱きつき滑るように降りるとドンの指示で距離を取るだろう

 

ドン「よーし、それじゃあ「火の粉」練習するか!」

 

アリィ「疲れたけど、沢山遊んだ!」




ドンによると炎を出すには深呼吸して口から息を吐けば自然とでるらしい。ドンが実演して「火炎放射」を放ってみせ、アリィが真似をする。空気が薄い場所なら



ドン「深呼吸して、口で一気に吐く!」

 

アリィ「〜…っ!出ない…」

ドン「行儀悪いが、唾を吐くような感じでやってみるんだ。腹の中の空気をぶつける感じだ」





もっと意地汚くとドンの提案には流石に困惑した。この場にリトが居ないのが一番の救いでる。それでも一度は出そうと吐いても、バーナーのガスに向かって息を吐いても火がつかなかった。




ドン「うーんやっぱ無理があったか?…アリィもしかして嫌、なわけないよな?」

アリィ「ううん…いやじゃ無いよ。炎出せるようになりたいのは本当だよ…?」

 

ドン「となると酸素が薄すぎたか…いくら身体が弱いからってちょっと無理だったかな」

 

ドン「流石に厳しくしすぎた。すまんな」

アリィ「アリィが下手だから良いよ?」





お茶の時間にはテントに戻り、また少し休んでから今度は山を降りて練習した。体力的には前より良くなって走れるようになったが、それでも炎を吐くことは叶わなかった。自分はジョウと比べても運動も出来ないし、技の勉強をしてもついに「火の粉」もできなかった。いくら馬鹿でも毎日走り回っているジョウの事がこの時だけは羨ましく思った。




アリィ(……どうしてダメなんだろう)

ドン「そんな顔するなって、美味いもの作ってやるから」

 

日も暮れ、特訓を切り上げでテントに戻ってきてもアリィの表情は曇っていた。ドンが気を利かせてレーションの中に入っている飴を割って食べさせ、木炭に火を入れるとテントの中に引き返した。



ドン「ハンバーグカレーとかどうだ?辛口にして食べると温まるぞ」

 

アリィ「うん…そうする。」



なんとかしようと手厚いサポートに嬉しかったが、その分自分が情けなくなった。どうにか笑顔にならなきゃと自分で言い聞かせてみせた。

…が、次にドンが戻って来た時にはアリィの姿はなかった。



ドン「ヒメリの実を入れたカレーなら明日には元気に……アリィ?おーい!」



俯いた視線の先にリトの姿が見えて確かに「こっちに来なさい」と呼ばれる声が聞こえた。ドンから離れるように崖の下に飛び降り、白い景色に揺れる炎を追いかける。時折こちらを振り向いて、そっと笑みを浮かべると霧の奥へと消えていった。



アリィ「ママーどこいくのー?」



昨日見えた夕日で輝く景色は次第に降り始める雪でいつもより早く黒く染めていく。尾の炎で自分の周りしか見えない霧の中にリザードン姿があったが、その手は冷たかった。









ドン「こちらドン、大将応答を!」

 

アテナ『あれドン、ガルシアなら3人でディナーに…」

 

ドン「アリィが居なくなった!手を貸してくれ!」



居なくなった現場ではドンが身体能力をフルに発揮し雪山を駆け回る。こんな暗くなった白一色の世界で炎とオレンジ色の子供を見つけるのは簡単なはずだ。それでも雪をかき分けても、全力で山を登り詰めて見下ろしても、アリィの姿はなかった。とうとう最小限の荷物から無線機のアンテナを伸ばし叫び、今頃ホテルか船に居るであろうヒトの手を借りる事にした。




アテナ『それじゃあテントに戻った一瞬で居なくなったんだね。分かった、ちょっと待ってて…」



ドン「夜になればアリィでも危険すぎる、すぐに大将を呼び戻して捜索を!」

アテナ『アリィに持たせたキーホルダーの信号を探ってる。暗中模索で探すよりこっちの方が早いよ!」



状況を聞いたアテナの方では、ファルトを中継機代わりにミュートシティの外に待機させ、手持ちのパソコンを立ち上げている。このパソコンと迷子防止を備えた尻尾型のキーホルダーの距離を測り、こちらの世界のダウンマップと照らし合わせて座標を割り出した。



アテナ『山の頂点を0としたら右に11、下に27メモリ!』



ドン「………山を降ったんだな!」



記憶の中の地図とそれに細かく引かれた線の1メモリ当たりの距離でその場所に赤ピンを置くようなイメージで場所を割り当てた。道中で見つけるためにも、振動による雪崩を引き起こさないためにも「あなをほる」より自分の足で山を下る事にした。





リトとアリィ、二人きりの世界では仲良く手を繋ぎ、霧の中を何処に向かうかも知らずに歩いていた。リザードンの感触はあったが、その手は氷のように冷たく、暖かく迎えてもくれなかった。

 

アリィ「どうしてママの手は冷たいの?」

 

リト「この雪の中ですもの、探すのに苦労しちゃった」

 

アリィ「………パパは置いて行くの?」

リト「良いのよあんなの。食べる事とバトルばっかりで…大変だったでしょう?」



今日の事を知ってて迎えに来たようだ。ドンの事には相当怒りを、というよりは冷たい態度で批判している。言ってる事は正しいが……手が芯まで冷え、指を動かすのも痛くなるとその手を離し握って温める。

 

アリィ「…うん。でも、優しかったよ。練習ばっかりじゃなかった。」



アリィ「ママの手、冷たい……あったかくない…」









ドン「……アテナ、お前の機械は大丈夫なんだろうな!」

 

アテナ『そっちの発信機よりはね!通信機の発信源からでもその位置であってる!』



ドン「アリィどこだ!アリーッ!」

 

アテナ『埋もれたか、でも動いてるもんな』

 

ドン「なら溶けた痕跡があるはずだ…となると」




まさか雪の中を?と地図を見比べた。炎もうまく吐けない体の弱い子が地面タイプのような芸当をするとはとても思えない。信号が徒歩の速度で動いてる以上生きている、或いは誰かが運んでいると言う事は確かだ。肩に積もった雪を払い、冷え固まって感覚がない手を温めようと息を吐いても白い息すら出なかった。



アテナ『ゆきかくれ?こんな高等な業見た事ない』

ドン「夜でこの降雪なら可能じゃない。そんな事をできるのは……」



アテナ『それならこっちから助けるのは難しい。…このゆきかくれを破るには、内側から環境が変化しないと…』

 

ドン「だったら果てまで追うだけだ、モニターから目を離すなよ。」





ドンの声は遮断された空間にも聞こえた。何層も壁を通したような遠い声だったが、いつもの呼び声ではなく、何度も名前を叫んで必死に探すような…



アリィ「……!黙ってきちゃったから探してる…」



リト「後でまた会えるわよ。」

 

アリィ「帰るなら皆とが良い…」




手を繋がず、ここまでついて来たが、振り向きもしないで先を行くリトの姿を捨て、声がする方に向かった。欲しいオモチャの前で駄々をこね、ワガママを貫きとうした子を親が無理矢理連れ去るようにアリィの手を掴み上げて引っ張っていく。

 

リト「戻ってもまた虐められるだけよ。こっちに来なさい!」

 

アリィ「いやだ!はなしてー!」

 

手を繋ぐというより握りしめるように掴み上げ、急ぐように小走りでその場から離れ出した。アリィが早さに足を引き摺るようにしてもお構い無しで。

その親の行動に恐怖心を覚えた子は腕を振り回して解くと、逃げるように雪をかき分け、走り出した。



リト「待ちなさい!逃げるな!」

 

アリィ「来ないで!」



アリィを追う姿はまるで逃げた獲物を必死で追いかけるような剣幕とした様子だった。初めて向けられた敵意に、返事代わりの燃えるように熱く、火が入った空気を吐きつけた。「ひのこ」がリザードンの顔を焼き焦がし、それを払いのけると頭の一部が掛けた、内側にテクスチャが貼ってないオレンジの断面を曝け出した。

 

アリィ「にせものだ……」



バレて仕舞えばリトを装うこともなく、地面を蹴り、ダイブするように飛びかかった。足が逃げようとせず身を守ろうと頭を押さえ屈んでしまうが、空虚からブチ込まれた砲弾がリザードンの姿を捻れて消し飛び、周りの深い霧の世界ごと崩壊させた。

アリィのはなった火の粉が、揺らぎを生み、外界のドンのほうでは暗闇に見えた歪む空間に両腕で作り出した「岩石砲」を撃ち込み、ゆきがくれと「ワンダールーム」で作り出した身を隠す世界に穴を開けた。

逃げ出した足跡の先には、自分の体よりも大きな何本の白い尾を生やしたアローラで独自の進化を果たしたキュウコンが惜しい顔でこちらを見つめていた。




ドン「ここは南国じゃねーぜ、冷凍狐。」

アテナ『やっぱり白いキュウコン!こっちにも居たんだ!』

 

キュウコン「……今のでゆきがくれがバレたか」

 

アリィ「…パパァ!」

 

腕の穴から煙をあげたドサイドンヒトカゲが必死で駆け寄り足元からプロテクターを足場にして登り、抱きついた。冷え切った体にアリィの熱は火傷しそうな程温かった




アリィ「知ってる、ミミッキュのお仲間…」

ドン「フェアリーってのは見た目だけ、だからな。」

 

岩石砲の疲労を消化しながら相手の様子を見る。状況もなにもかもが相手に有利な状況。アリィさえ確保すれば要はないが、相手も逃すつもりはないらしい。「オーロラベール」でキュウコンの周りにオーラを身に纏い、戦闘態勢を取ると、振り上げた前足を踏みしめると氷の山脈がドン目掛けて走った!「ぜったいれいど」!発動の前兆に合わせて横にステップして避けて見せた。

 

ドン「と!アリィはなるべく離れるな!」

アリィ「うん」

 

片腕でアリィを抑え、空いた手でキュウコンに対して「ロックブラスト」を放つ。雪風の中でも直線の弾道で目標に命中するが、纏ったオーロラベールが装甲を貫徹しなかった戦車砲のように纏ったオーラに沿って跳弾となり後方に消えた。

身体の中に伝わる衝撃と音に身体をびくつかせながらも今はドンを信じてしがみつくしかなかった。



ドン「ベールにしちゃ、反応が鈍い──!」

 

キュウコン「ワンダールームの存在も忘れてませんか?」

 

アリィを誘拐した仕組みに「ワンダールーム」を使っていたとしたら、ドンも自然とその影響かに居る事になる。防御と特防を入れ替える効果とダメージを軽減するオーロラベールも併用すればドンの「ロックブラスト」を涼しい顔で食らる説明がつく。

逆に今のドンには物理攻撃が弱点という事になる。雪の上を軽い足取りで走り、「トリプルアクセル」で氷の粒を舞いながらドンにぶつけ続け、プロテクターと体に凍傷を与えていく。

キュウコンの言葉の意味をすぐさま理解したドンがアリィを肩を踏ませて後ろに逃がした。

冷気で脆くなった装甲に攻撃するたびに強化される「トリプルアクセル」が罅を入れていく。

 

ドン「…やっぱ離れろ!」

キュウコン「敵の強みが、まさかにもなる!」



ドン「だったらこれも弱みになるだろッ!」

 

雪にとらわれ、寒さに耐えるドン。最大強化された技で攻められる前にキュウコンを腕で振り払い、アリィが「後ろ」と叫んだ!。相手の強さは自分でも把握している。不得意だが口内に炎を溢れさせ、「火炎放射」の火球を吐き出し距離を取るキュウコンを燃やすが、すぐにそれは幻覚となって炎と共に消えた。「ゆきがくれ」で命中せず、本人は違う場所から3撃目の「トリプルアクセル」でドンを切り付けた!遠心力で氷の粒が形状を変え、氷の刃物とも言えるそれでドンのプロテクターと岩肌に綺麗な横一線の切り傷を作ってみせた。



キュウコン「これが本当の…トリプルアクセル!」

ドン「ッッ…!」

 

アリィ「やられちゃう…!ダメ…!」



切り付けられたドンが雪の上に肘をつけて伏せかけた。守るためにアリィが必死で駆け寄って「ひのこ」を放ち、相手の表目を焦がす。続けて2度、3度吐き続けるが、息が切れて黒い煙を吐いてしまった。好機とばかりに動けないドンとアリィに、真っ白な波が四方から押し寄せる。「ゆきなだれ」から逃れるために、飛び上がる準備をしたが、その光景に動けなかったアリィを置いて行くという事を本能が緩さなった。



キュウコン「雪雪崩!」



ドン「…!しまったまずい!」





雪に呑まれ、アリィのすすり泣く声に気が付いた。どうやら庇って二人とも産まれてしまったらしい。尻尾の明かりで凍結だけは免れたが…無線機も全ての荷物を今ので持っていかれたようだ



ドン「…大丈夫か?」

アリィ「ごめんなさい…邪魔ばっかりして…」





ドン(どうする俺、奴を仕留めるには岩石砲しかないが…オーロラベールがある限り耐えられる…切れた瞬間を狙おうにもアリィを守りながらでは身が持たない!)



キュウコン「簡単には逃げられませんよ!もう一度ワンダールームを張りますから!」

 

キュウコン「得物をこちらにくれるなら、話は別ですけどね」

 

外から相手の声が聞こえ、もう一度「ワンダールーム」を張りなおしたようだ。

アリィの炎で雪の中に出来た小さな空間で泣く子に頭を置いて背中へと滑らせるように撫でる。

腕の中で恐怖を抑えながら顔を伏せる温もりには絶対に守り抜くと再認識させられた。

 

アリィ「…が、ひっく…火も吐けない体が弱いからこんな事になって……何にもできないから…」

 

ドン「1歳児が全てに絶望したような馬鹿言うんじゃねぇ、最初から完璧な奴なんていねぇよ…その点ではアリィも立派なヒトって事だ。」



アリィ「えぐ、ぐずっ………でも余計なことしちゃったから…」

ドン「それ以上弱音を言うとケツを引っ叩くぞ。…….しかし技は出せた。なら可能性はある!泣くのは一発勝負で負けてからだ。」








キュウコン「・・・・・・・・仕留めてはいないはずだ。」



更に時間が達ち、相手がもう一度オーロラベールを身にまとって完全な体制を作ると

雪崩で盛り上がった雪山の周りを転々と飛び移り、相手の様子をうかがう。

2週した所で振動が伝わり、角ドリルで雪をかき分け、巨体と共に雪を巻き上げた!



キュウコン「まだ抵抗するのか!」

ドン「これ以上なく頭が冷えてすっきりしてたって所だ!」

 

肩に捕まったアリィが前に飛び降り、お互いに腕を体の前で交差した!



ドン「…勝負!」





数分前…



ドン「アリィが技を出せないのは感情のせいだ。昨日の技を出すには覚えてるか?」

アリィ「肉体だけだはなく、精神も必要…?」



ドン「そうだ…アリィはもっと自分を出すんだ。勉強だけじゃなくて、もっと子供らしく、感情的になったからひのこを吐けた。」

 

ドン「身体なんて毎日食べて動いて寝れば自然とどうにかなるんだよ。強いて言うなら、今日は昨日の自分より強くなる。それだけ出来ればジョウ(上)出来だ」

アリィ「…うん!」

 

ドン「次は全力でぶつかるぞ。これから教える事をやるんだ」




組んだ腕で体の中に力を溜める。横から真上に腕を振り上げ力を手のひらに集めた!

黄金の光と共に燃え盛る炎が冷たい氷と雪の世界諸共、キュウコンを焼き付けた!



ドン「力を込めて!」 アリィ「思いを込めて・・・っ!」



効果抜群の技を受け、体に引火した火を雪に寝転がって消しているうちにアリィを抱き抱え、寒さで強く痛む切り傷に耐えながらその場から逃走した。

後は何も覚えていない。追撃をどうやって凌いだかも、満身創痍で10番道路に飛び出し、ユディーと合流した後のことも…ただ、アリィに怪我はなかったという事だ。














翌日、スキー場にて




アテナ「…昨日は大変だったね。」

 

ドン「あの後パワーダウンしたアリィを連れて…ユディーに合流できなかったら危なかった。」

 

ユディー「…一応二人には黙ってるけど、本当に良いんですかね。」

アテナ「結果無事だったし良いんだよ。バレたら旦那さん殺されるからね。」

 

キュウコンを退け、ユディーとファルトの手を借りて雪山から下山した時は日を跨いでいた。

ドンの傷はアテナの治療と食べて寝ていたらある程度は回復し、残りはアテナの手を借りてリト達を誤魔化す事には成功した。今は身体に疲労感と筋肉痛を覚えながら、スキー場のカフェでホットミルクを啜り、アテナ達と輪になっている。

 

ファルト「しかし…山に登って身体を鍛えるというのはわかる。一日遊んで練習して炎を吐けるようになったばかりなのに、Z技を良く出せたな。」

アテナ「あ、それ気になった。やっぱりコツとかあるの?」

ドン「コツっていうか…実は…アリィと共に撃った、と見せて俺が火炎放射で極限技を放ったんだ。」

 

二杯目のミルクを受け取り、口に付けようとしたが、ファルトの問いに手が止まった。

アテナ達がテーブル叩いて席を立つと、近くいたヒトや店員さんがこちらを向いた

 

ファルト「それでは嘘ではないか!」アテナ「アリィ信じ込んでるよ!?」ユディー「食う事しか頭にないのは本当じゃないですか!」



ドン「騒ぐなって、皆こっち見てるぞ。…アリィには自信も必要なんだ、自分が弱いってずっと思い込んでるから自分でもバトルで勝てるって自信をな。」

 

ドン「アリィなら無理なバトルはしないだろうしな。…それにほら結果は出てるぜ。」




ドンがタンブラーに口をつけながらその方向を見ろと顔を動かした。

外に作られた雪原のバトルフィールドでは顔を黒焦げにされたサイホーンが目を回し引っ繰り返っていた。その二人きりの空間でジョウを倒したのは紛れもなくアリィだ。

ジョウの体当たりを食らう前に「ひのこ」で撃退したようだ。

集まった観客に拍手で迎えられながら退場すると、ドン達のもとに嬉しそうに駆け寄ってきた。



アリィ「…勝てた!初めてお兄ちゃんに勝てた!見てた!?」ドン「な、簡単だろ?」

 

アテナ「・・・。次は俺も行こうかな。」

 

ドンの腕を上り、大きな腹の上に座るとアテナ達にVサインをした。一方ジョウは相変わらず連敗に連敗を重ね、滝のような涙を流しながらひっくり返ってジタバタしている。

 

ジョウ「うわーん!アリィにも負けたあぁぁーーーーーー!」



ファルト「……;」ユディー「前途多難、ですね…」






ドン「アリィ、次もまた山登りするか?」

 

アリィ「…うん。今度は一緒に登る!」