入学試験

未完。4月には終わらせるつもりが中の人が体調不良…後日修正

「誕生日おめでとう!」



12月は誕生日から始まった。これまで基地内全体がパーティ会場にしたような催しとは代わり、1つのテーブルを囲ってイチゴを全体に乗せたごく普通ケーキの上で揺れるろうそくをアリィが息を拭いて消した。



リト「ようやく…ようやく普通の誕生日ができたわ。最初の時は遊園地みたいな大袈裟にやって」

ドン「その次はトラヴィスさんのだもんなぁ……」

 

アリィ「でも華やかなのも好きだったなー」

 

切り分けたケーキを真っ先に食べ終え、口元を拭いてもらうジョウ。タオルから離れると無邪気な笑顔を見せた。

 

ジョウ「これでアリィも同じ歳!学校いけるね!?」

アリィ「学校ってなーに?」



リト「えっ?3歳から学校いけるんですか?」

ドン「あっ…小学校前の幼学生は3年あるんだ。義務じゃないからこれは行かなくてもいいけど」

 

ジョウ「皆とご飯食べたり勉強する所って言ってた!凄く強くもなれるよ!」

アリィ「…行きたい!皆と勉強したい!」

 

ジョウ「アリィも一緒ならオーライ学校でもジョウ出来だもんね!」




次の日






リト「ねぇ、昨日ジョウが言っていたオーライ学校てなんですか?私初耳ですけど…」

ドン「………言っちゃったなら仕方ねーか。カントーは知ってるよな?」

リト「こっちのは凄い都会だとは…ジョウト地方とはにかいつくと併合して二つまとめてそう呼ぶんですよね?」



指で机をトントンと2回つけば机で寝ていたロトムタブレットが起動してカントーの街を映し出す。ポケルディアと違いアスファルト舗装され街灯が並ぶ道路、巨大なビル群。複数階の建物に最新のファッションが並ぶデパートの画像に昼食の下準備をしていた手が止まり引き込まれてしまう。

 

ドン「んで、カントージョウトのど真ん中にあるのがその学校。王立未来学園。略して(王来)オーライ。」



そう呼ばれる学園はカントージョウトを、そしてセキエイ高原を結ぶ道の代わりに位置していた。ポケモンリーグのドームより巨大な建築物が、上空から撮り下ろした地図からでも一つの街のように見えた。

 

リト「世界一の学問、バトル、医学研究……あの、これ本当に受験させるんですか?ものすごーーーくレベル高いんですけど…」

ドン「推薦貰ってんだ。まだ行かせるとも決めてないが…」




リト「なんでこんな大事なこと言わないんですか」

ドン「アリィだけ外されてるなんて言ったらショック受けるだろうが…とにかく、アリィがやる気なら入学試験はさせてみる意味はある。それからでも遅くはない。」







ガルシア「王来の試験か、通常学科なら試験は一週間後だ、よって、わが軍争力を挙げアリィ及びその両親の教養を挙げる作戦を開始する。なお機密レベルは最高のマスタークラスとして外部への情報は…」

リト「誰も国家予算使って入学させたいとは言ってませんが…?」

アリィ「わーい皆でお勉強!」







ガルシア「まずは試験勉強からだ。」

ドン「アリィは頭が良いから十分だけど、これをできないと次にもいけないからな。」

リト「じゃあまずは算数から勉強しましょっか。私ノートと本持って来ますね」

 

リトが会議室から退出するため扉を開けたと同時に胸元から何か冷たいものが体を通ったような感触があり、振りむいた。最奥の席でガルシアの前からジュペッタがすり抜けて顔を出してきたのだ

 

ジュペッタ「諜報部隊から報告です。」

ガルシア「礼のものは?」

リト「わあ、ポケルディアの人とは思えなお方…私達の出る幕はなさそうですね。」

アリィ「スタイリッシュ…よろしくお願いします!」

 

最前列に着席したアリィが頭をつけるように礼をし、タブレットにガルシアに渡された神束の中身が表示された。…いくつもの枠の中に記号やレ点、数字が書き記してある。

 

「この国の密偵と協力して用意しました。試験の問題と答案になります。」

ガルシア「さぁあとはこの問題を覚えれば100点は確定だ、」

アリィ「これって勉強?」

 

リト「前言撤回、この人たちに頼ったら合格まで不正されそう」

ガルシア「勉強も覚えることだ、テストの回答を覚えてもそれは勉強になる」

ドン「ならんだろ」






年が明け、試験当日。

ポケルディアから船出して2週間ほどが経ち、上陸した

世界のカントーは大都会だった。

遥かに巨大なコンテナ船が並ぶセキチクシティの港、その空の向こうにはタマムシヤマブキシティと思われるビル群が太陽に照らされ、かつてサイクリングロードとしてつながっていた道路は文字通り舗装され、すべの街へ繋がるジャンクションと化していた。

 

連れてきた馬車にリト達がドンとガルシアが脇を固める様に横につき、住宅地となったマサラタウンを抜けて到着したのはシロガネ山と、ポケモンリーグへの十字路に位置する場所。

その生徒全てがシワのない白いシャツと赤いカーディガンを見に纏い、馬車が止まった学門の脇には人類が居た時代から続いたと思わせる人間の石像がこちらをじっと見つめていた。




ガルシア「ジョウは俺たちと行動だ、何かあれば連絡を」

ジョウ「アリィも頑張ってね!」

 

リト「午後には筆記の結果が出るから、お昼は集まりましょ」



この時、ジョウは何故別行動なのか、勉強は全く出来ないからバトルで挽回するのか、それともただ受験する場所が違うのかアリィの中では疑問に思った。



筆記試験は船に何人が乗った降りただ、お題の絵を書けとか、3歳にやらせるには難問だがアリィに単純過ぎた。ポケルディアでやった模擬試験という回答用紙の問題よりも。周りの同年の子が唸って考える中、寝ないようにしてる方が辛かった。

試験は勿論合格。午後の試験に受けれるのが分かったのは、昼食中の事だった。





ドン「俺、変じゃないかな。」

ポケルディアには服を着る文化がない、正確にはこの大都会カントーだけが服を着る文化だ。歳を追う毎に縦にも横にも大きくなっていくドンの私服と言えば、プロテクターと同じオレンジ色をしたネクタイだけでこれはガルシアも同じである。不安そうに小さい呟いた言葉に、この日の為にとオレンジと白の袴を身につけたリトが下から上に顔を動かしてドンの腕に触れた。

 

リト「正直いうと違和感。」

アリィ「…ちょっと恥ずかしい。」

 

受験生と保護者が面接を待つ廊下では全員が何かしらの服装を身に着け、ドン一人だけが岩肌をさらけ出していた。普段なら気にしない所だが、目の前を通過するヒトが自分一人だけが変わり者と見るような視線に背を丸め、縮こまってる装いにアリィが他人と思うように顔を横にそらした。

 

ドン「終わったら布で覆うようなものでも良いから絶対服作ろ。」

リト「私も服を仕立てたいですね。大きな町のほうなら服屋さんならオーダーメイドでドレスも……今日帰国するんじゃないですし…」



「お前、なんだあの答え方は!」

 

緊張感よりも羞恥心のほうが勝り、さっさと順番が来てくれないかと思いながら談笑する最中、息詰まったようなぎこちない話し方で礼を言い、目の前を通り過ぎる受験生の父親と思われる一人が子供に叱咤。泣きわめく声が出入り口から退場した後も耳に残るように頭の中に響いた。アリィは、自分の番が近づくとともにそれを見た不安で胸を抑え、大きく息を吐いた。



ドン「大丈夫だ、言われたことを、多少言葉に詰まるのはあれだってある。自分の思ったことを素直に話せばいい。」



アリィが小さく「頑張る」と答えた直後、試験官が次の番号を口にした。自分たちの番だ




大規模かつ世界的に有名な学校だからこそ来客も大物そろいだからか、面談室も相応なものだ、天井に吊るしたシャンデリアの照明はロウソクに見立てた電球が部屋に影を作ることなく照らし、丁寧に縫い合わされた赤いソファーがテーブルを挟んで並べられていた。3人掛けの席に面接官が、リトとアリィは一人掛けに座り、サイズと規格の合わないドンがその後ろで腕を後ろに組んで立ち直った。



ドン「席がなさそうなのでこの形で失礼します。」

 

モノクルを掛けた校長と思わしき風格のビーダルは特に動じなかったが、残りの二人はドンを見上げその重圧にため息をつく。しばらくそれから進まなかったが、咳をするとそれぞれが視線を手元の書類に向けた。

 

セドリック「まずは紹介から、左から教員代表のライサンダー、4月から教頭のペンブローク、私が入れ替わりで校長になるセドリックです。」

 

真ん中に座ったザングースだけはやけに高慢な態度から無神経なヒトとも。感じ取れた。



ライサンダー「えっと…では両親への質問から。…奥さんはこの世界の方ではないそうですが、どういったご関係で?」

 

温厚な態度で左端のムーランドがつぶやいた。いきなり踏み込んだ内容にアリィはまずリトの顔をみて、リトはドンをお互いに見上げ、見下ろす形で向き合うとドンが軽く頷くように顔を動かした。



ドン「リトさんとは、ご友人の紹介で出会ったのがきっかけです。最初は横のつながりでしたが、何度もあっていくうちに意気投合して、好意に発展していった、感じです。」

 

(著名人はもちろん、それなりの家柄も多く在学する学校なら、リトさんはよそ者扱いか…)

 

ペンブローク「奥さんどうして軍人の、しかもよそ者なんか選んだの。元の世界じゃモテなかったからこっちきたの?」

 

リト「えっ?えっと、出会いがなかった、というか…その時ドンさんにあったのが初めての男性友達、という感じで、その時はまだ…」

 

セドリック「発言を控えろ。…申し訳ない、次の質問を。」



ライサンダー「それじゃあ次はアリッサムちゃんに質問。」

 

アリィ「は、ひゃい!」



ライサンダー「本校の志望理由は?」

アリィ「理由?ですか…お兄ちゃんがここの試験受けるから、です。」

 

リト「ジョウというサイホーンが叔父と試験を受けに来ています。たしかバトル専門の…」

 

ペンブローク「あっ、そうかー。このドサイドンがあの「ドラゴン連れ」の親ってことか!じゃあ嬢ちゃんはオマケで試験にきたのか。」

 

ドン「なんだと?」

 

とても教師から出るような発言ではない。アリィをオマケなどと言い放つペンブロークにドンが睨みを利かせるが、彼はドンに気にもせず灰皿に煙草を押しつけ、次に火をつけた。と流れを変えるように校長が杖で床を突いた。

 

セドリック「教頭、少し黙ってもらおうか。先ほどの失言は申し訳ない。代わりに質問を変えよう。将来の目標があってこの学園に入りたいのかな?」



アリィ「えっと…まだ将来の事とか、やりたい事がまだ分からなくて、ここで見つけたいと思い………ます。」



ライサンダー「恥ずかしがら無くても良いですよ。模索中なのはむしろ立派なくらいです。」

セドリック「その歳で後を継いで政治云々などよりは言わされてる感もなくはっきりと自分の意思がある。ここは別に親がなんだからと入れる所ではない。」

 

セドリック「両親は何をして、二人のことをどう思う?」

 

アリィ「ま…母は優しいです。でも兄には厳しく、たまにおっかないです。父は軍のヒトです。毎日朝早くからいなかったり、時々何日も戻ってきませんが、とっても強いです。」

 

何を言われるのか不安がったリトが安堵したり、顔を赤らめたりしながらアリィの素直な言葉に皆が頷いた。そして、たった一人の毒虫に発言させる隙を与えてしまったのだ。

 

ペンブローク「…それじゃ質問変えましょ。竜滅戦争って知ってるかい?…ポケルディア軍ってのが介入しちゃったせいでこっからドラゴンがみーんな居なくなった事件だよ。」



ドン「あれは終戦後、公式で発表した通り人間時代の兵器が動いた事によって起きた事件で、彼らはそれらに…」

「力を持つ奴らはあれのエネルギー源で、残った同族どもが団結して戦ったとでも?その結果が、ドラゴン絶滅ってオチで?」



アリィ「放っておくと凄く悪い事が起きてしまうから皆戦ったぐらいしかわかりません……でも、皆戻ってくる、いつか皆帰って来て、元通りの日が来るって思いたいです。そうじゃないと、悲しいだけだよ…」

 

ドン「…この件に関しては、水面下で今も動いてます。面接中の上、非公式の場ではこれ以上は関係者として答えられない。」




ペンブローク「それじゃ最後の質問だ。嬢ちゃんは父と母、どっちが好きかい?」

 

アリィ「えっ…」

ペンブローク「だってそうでしょう?こんな物騒な世界で、なんでわざわざポケルディア軍の方で生活してるんだ?ふうさとしては好きな方に住んでるかもしれないけど、子供としては本当は奥さんの所でもっと普通の生活がしたいんじゃないの?」

 

ドン「結構な事を仰いますねこのやろう。質問の変更をお願いします。」



ペンブローク「大体普通の父親は戦争も殺しもやらねーよ。それに、嬢ちゃん未知の病だとかなんとかじゃないか。それだって異世界の者同士くっつかなきゃ、無かったかもしれないんだから。変更もなしだ、答えなきゃ不合格にする」

 

足の上で拳を強く握り、泣き出した。ボタボタと大粒の涙を落とし、ソファーに小さなシミを作る。

 

ペンブローク「お兄ちゃんだけ強いドラゴンが居て、自分は病弱で弱いのは納得できないよな。うちは親元離れて寮のやつもいるんだ、些細な事で泣きわめいてもらっちゃやっていけねーよ。」

 

ドン「それでも教師のいうことか」

 

ドンと言い合いの中、の前に大きな影ができた。リトが、笑いも、怒りもせず拳を振り上げ、奴をぶん殴る様に煙草を奪い取り、手の中で握り潰し、消し炭にした。

 

リト「失礼ですが、子供の前で煙草をはやめてもらえませんか。」

リト「あの時、自分の居場所を捨て、戦った人たちの気持ちもわからないで、好き放題言わないでください。…本日はありがとうございました。」

 

泣き続ける我が子を抱き上げ、背中を摩りながら教師陣を横目に部屋を去る。追うようにドンもリトの背中に腕を回し、戸を開けた。

 

ペンブローク「おい!まだ終わってないぞ」

 

リト「子供の気持ちを軽んじるのがここの教育理念なら、いくらお上品でも選ぶ学校を間違えましたわ。」

 

ペンブローク「侮辱するか!?貴様もどこに行く!軍のトップが放棄するつもりか!」

ドン「残念ですが、妻には逆らわない方針なので。…それにまだトップではないんで。」




ドン「あそうだ、この事を国際問題にするならどうぞご自由に。受験生に対する屈辱的な無礼があったとこちらも争う姿勢で望むぜ。」










ドン「…すまん。手を汚してしまって。」

 

リト「お上品と聞いて呆れました、新しい校長の方は良い人そうでしたけど。」



追い抜いて行く黒煙を上げた列車に乗った学生と思わしきヒト達から注文を浴びながら、リトの腕の中で眠りについたアリィを乗せ荷馬車が帰路の道路を走る。



リト「この埋め合わせはそうね、服を5着くらいは見繕ってもらおうかしら?」



ドン「分かったよ。しかしジョウ、お前は気に入られてたんだろ?」




ジョウ「アリィが居ないと勉強なんて全然わかんないもん。一緒じゃないと面白くないよ」