1000回ジョウ等!ジョウとティランのバトル合宿!

これまでのジョウとティラン

 

去年の夏祭り、ジョウと対戦したアテナが繰り出したポケモンミミッキュ

 

そのポケモンはティランのz技をものともせずティランは敗北した。次こそはアテナにリベンジをと二人で約束した。

 

 




ドン「……ジョウ。」

島の掲示板に張られた黒いゆがんだ線の紙。店員が言うのは悪戯書きというが、

これを暗号か文字と言えるかはともかく。ティランが書いたものだ。読み書きができないジョウに代わって書いたのだろう。

店員さんに事の事情を説明し、翻訳したものを上から張ると店を後にした。




ドン「ただいま」

リト「あら、おかえりなさい!待っててね、すぐ朝食あっためるから!」

朝の朝礼が終わり、基地内の騒がしさが無くなったのと入れ替わるように家の扉が開いた。玄関に立ち尽くす巨漢にリトがソファから飛び起き、声を聞いて子供とドラゴンが廊下から顔を出す。いつもなら手を広げ、駆け寄って来ないか待ち構えるが、今回は違った。

駆け寄ったティランを抱き上げ、リトの方を向いた。

 

ドン「ジョウとティランを夏休みの一週間、お借りして行きます。」

 

リト「はい……?どうぞ。」

ジョウ「えっ?ちょっとどーゆー…」

ドン「ポケモンバトル合宿だ!」

ティラン「アガッ!?」





島。カフェ



ドン「一週間、お世話になります。」

ジョウ「お願いしまーす!」

ティラン「じゃがらがー」

 

「はい、薬もご食事も準備してありますので、遠慮なく呼んでください。皆さんのキャンプ場は川の方でご用意しておきました。」





デンべえ「お、来たな」

島の川。海岸へと流れる川を挟んで見慣れた連中が無数のキャンプとコテージが展開中だった。ドンとジョウ達が店から訪れると膨れ上がったリザードンが二人の荷物をキャンプに放り込んだ




ジョウ「バトル合宿って、どーやるの!?」

 

ドン「…1000回バトル!」

 

ティラン「じゃ、が…が!?」

ジョウ「1000回!…ってどれくらい。」

 

ドン「沢山!お前のために相手をしてくれる奴とバトルをひたすら繰り返す!飯と睡眠以外は全部ポケモンバトルだ!」

 

ティラン「あががっガジャ!?」

ドン「風呂もしながらバトルだ!」

ジョウ「勉強は!?」

ドン「やらねーだろうがしながらバトルだ!」



ガーカス「ジョウ君、隊長は本気みたいですよ。」

デンべえ「中には何百も相手する奴も居るからな。此処にいるのは馬鹿みたいな時間を掛けて都合を合わせてくれた、馬鹿な奴らだけだ。」



ドン「二人共、お前にはマジで倒して―やつが居るんだろ」

 

ドンの言葉にジョウとティランの脳裏に記憶が流れる。アテナとその連れでるミミッキュのミネット。今度こそ勝つという思いは二人顔を合わせなくても同時に頷いた。

 

ジョウ「うん…居るよ。」

 

ドン「だったら速攻で強くなるしかねぇ、バトルで強くなる方法…それはバトルをしまくる事だ!」

ガーカス「皆と1000回バトルをやったら、めちゃくちゃ強くなるはず!」

 

ドン「だが期限はバトルまでの1週間しかねぇ、ジョウやるか!?」

 

ジョウ「…ジョウ等!」





こうしてドン率いるバトルチームとジョウの1000回バトルが始まった。

勝敗のつけかたは負ける流れになれば次を仕切りなおすというあっさりとしたやり方だったが、そのバトルそのものにはいつもの様子だった



ジョウ「俺にはティランを最高にする必殺技がある!ブレイジングソウルビート!」

 

ドン「……メタルバースト!」

 

ティランとジョウが放つブレイジングソウルビートの波動を真正面から受け止め、カウンターでメタルバーストがティランを四方から襲う。最初の数回はティランも避けては見せるもの、次第に増えていくの金属と岩の破片の猛攻に耐えきれず沈んだ。



ティラン「あ、グゥ…」

デンべえ「傷はすぐ直してやる!こっちこい!」

 

ジョウ「くっそー…やっぱり強い!」

ドン「おいティラン!無理と分かればすぐに逃げたり遠ざかって良い!いちいち傷を直す暇はないからな!いざとなったらジョウを身代わりにしろ!次、ガーちゃん!」

 

ティランの体に傷薬を塗り終えて地面に書かれたバトルフィールドに足を踏み入れると早速アーマーガアが飛び掛かってきた。一戦起きに対戦相手を変え、バトルを繰り返せば既に日は暮れ、夕日が水平線に沈み、オレンジの日が空を薄紫に染めている。

「98試合、ジョウ33勝ドン63勝」と書かれたボード。ジョウは3つまでしか数字を数えきれないが、自分が負けているというのはなんとなくわかっていた。

 

ジョウ「1日でこんだけ…」

ドン「この調子じゃ1000回なんて終わらねーな。二人とも、明日はもっと激しく回していくぞ!」




昨晩は疲れ果ててすぐに寝る事が出来た。島の秘湯で浸かっていた途中で寝てしまったようだ。ドンがそれをテントに運んでその日は終わり、朝が来た。



ドン「全員起床!ジョウより遅い奴は後で楽しい稽古だぞ!」



遅めの6時に怒声と目覚まし時計が鳴り響き、各地に設営されたテントから次々と現れる大戦相手。まだ半目の寝ぼけた者とすでにドンを始めたとした起床済みのポケルディア防衛軍のヒト達が入り乱れる中、最後のテントに寝袋にもぐりこんだままのジョウとティランを追い出すように放り出した

 

ドン「さっさと起きろー!飯前の準備運動だ!」

ティラン「あがっらが!?」

ジョウ「まだ朝早いよー!」



二日目。今日のバトルはバトルフィールドが存在しない島全体を使った特訓だ。島の各地形を自由に使うため移動しながら戦闘を続け、川から海岸沿いに砂浜へ、カフェへの道を挟むように生い茂る草木と森の中を駆け巡り、湖の滝の前へときた。



ジョウ「見失った、ティラン油断するな!」

 

ティラン「…ガッ!?」

 

滝の音と流れ落ちる水で揺れる水面を交互に見て隠れる相手を探す。ジョウが追いかけて来てティランが横目で頷いた瞬間、滝の水が濃い青になると大木のような腕がティランの腕をつかみ取り、乱暴に水面に叩きつけた。 

 

オーキス「よそ見をしない!…そんなものじゃないだろう二人とも!」

 

途中で昼間に見えた流れ星は銀河の果てに旅に出たオーダイルとポケルディアのドラゴン。旅立つ前にドンと約束をしてジョウのために戻ってきたのだ



ジョウ「だめだ…とーちゃんも皆強い…!」

 

レナ「ジョウ君、弱気にならないの!」

 

投げ込んだ浮き輪に使ったティランをボーマンダが浮上しながら引き上げる。ティランの方は顔振って飛沫を飛ばすとすぐに構えた。

午後のバトルはすべてオーキスとレナが担当した。高速で駆け抜け、ドラゴンクローで切りつけるレナには翻弄され、オーキスは相手の動きを予測し、こちらの地の利を得るように避けていくことで徐々に追い詰められていった。



250試合、ジョウ97勝ドン153勝。

 

ドン「今日はこれくらいにしといてやる。…帰ってきて早々二人も悪いな。」

 

オーキス「私はかまわないが、ジョウは大丈夫だろうか?」

レナ「抜け殻よ、ティランも…」



干からびたようにその場に伏せる二人に心配するようすは見せた二人、この日は何試合目のバトルで倒れたのか、ティランもいつから一人で戦っていたのかは覚えていない。その場に倒れ、諦めるかのように意識が遠くなり、次に目覚めた時は温泉で浮かんでいた




ジョウ「っは!」

ドン「よう、目が覚めたか」

ティラン「じゃらっがー。」

投げ込まれた勢いとお湯の熱でスマートフォンのロックをスリーブを解いたような勢いで顔を上げた。端の方ではティランが満悦な表情を浮かべてマッサージを受けていた。

溢れたお湯で濡れたタオルを背中にのせ、片足で指圧してやると、今まで聞いたことのないような抜けた声を漏らしていた

 

ティラン「あ、アァー……じゃが。あがっがが」

ドン「そうね、ドンは身をもってアテナさんの強さを体感しているわ。もちろん連れの方も、だからあなた達を強くできる出来るのは自分しか居ないと思ったんじゃないかな。」



明日に備え疲れを取ってもらうティランに対しジョウは表情は暗かった。足をまげて顔以外を湯に沈め、ティランの様子を伺いながら上がるために出るために浴槽の石へと足を掛け、目をそらすように息を吐いた。

 

ドン「なに落ち込んでだよ。まだ5日もあるぜ、こっから逆転ぐらいお前なら簡単さ」

 

ジョウ「…わかんないことだらけでさ。」

ドン「奴の事か。」

 

腰にすら浸からない程の巨漢が秘湯という水たまりを歩く。水を蹴って起こす波は大きな波となって囲いの石にぶつかり高い波をあげジョウの顔にかかり、外に流れ出ていく。ドンの言葉に振り向く事無く頷き、隣に腰を下ろした。

 

ジョウ「このままとーちゃん達に負けっぱなしじゃあミネットさんにも勝てないなって」

 

ジョウ「…前のバトルで負けて、ティランと約束して次の夏休みでぶっとばして今度こそ勝つんだって…って思ったんだけど。このままじゃ…」

 

なんだそのな事か、と口には出さずジョウの背中を白い3本指で摘まみあげ湯船に落とした。足を大きく広げ、突き出ているドンの腹にしがみつく様に湯か飛び出しらしかめっ面を見せた子の前には瞬き一つせず真剣ににらみ返した。今までバトルのときに自分には見せてくれなかったまっすぐな目だ。

 

ジョウ「ぶっ…なにを!」

ドン「余計な事考えるな。」

 

ドン「アテナに勝ちたいなら、ただ勝ちたいって気持ちだけを持ち続けろ!ポケモンバトルは勝ちてーって思った奴がつえーんだ!」






三日目。400試合目ジョウ169勝、ドン231勝



ジョウ「避けられたなら「ソウルビート」だ!いけーッ!」

ドン「なっ、その技使えのか!?」

ジョウ「ぜっったいに勝つ!」

オーキスのアクアジェット紙一重で避け水を浴びながら通り過ぎていくオーキスを見やった。相手が次の手を打つ前にティランが懐から「のどスプレー」を出して口にスプレーを打った。

 

ジョウ「のどスプレーで特好も上げて、スケイルノイズ!」

ティラン「アアアッ、ガーッ!」

 

自分の体力を犠牲にしながらもティランが全身の鱗と放つ咆哮はオーキスが纏ったローブを震わせる程大気を揺さぶり、ドンの元まで吹き飛んで膝をついた。

 

オーキス「流石に、特攻が上がり過ぎると敵わんな。」

ドン「ずいぶんと勝ちたい気持ちが前に出てきたな!」




4日目。

二人はお互いの勝ちたいという気持ちをすべてぶつけた。ドンが普段の勝気にジョウはそれを見本にする様にただ相手の動きを見てティランへの指示が的確になっていく。




ドン「まさか、出来ないなんて言わないよな?」

デンべえ「ばーかにしてくれてー。『天竜天下!』VMax進化!」

 

レナ「うーん、カッコいい響き…」

オーキス「(この命名センスだけはどうにかならないもんかな。)」

 

カビゴンみたいなリザードンがその身に似合わないポーズを決め、紫の雷に打たれた。炎の翼を島を包むように広げた化け物が代わりに現れ、羽ばたいて放つ獄炎がティランもろとも広場を吹き飛ばした。

 

ティラン「あぎゃーーっ!?」

デンべえ「ガーッハッハ!この姿ならまだまだ現役だ!」

 

ジョウ「くそっ!もう一回だ!」

ドン「良いぜ!何度だってやらせてやる!」





ジョウの勝ちたいという気持ちはこれまでの悩みを吹き飛ばし、新しい戦い方を生み出し、ティランはそれに応えるように技を進化させる。勝利への欲を押し出すほどそれにこたえるようにドン達も次第に実力を見せていった。

 

5日目。698試合目ジョウ327勝ドン371勝。 次第に対戦相手は軍の者も混じり始めた。バトルの経験よりも「戦い」としての経験が勝る彼等は手加減というものを知らない。

 

ロン&ガルシア『獣王無尽!』

 

ガルシア「ティラン相手なら容赦はいらん、2ターンで決めてみろ」

ロン「必殺のヒーローキック、みせてやるよ。」

 

リザードンをさらに進化させたメガシンカの姿が上空に飛び上がり、大の炎文字を放ち、それを追うように降下し身を反転しながらの蹴りを浴びせる。それをティランは刀を腰から抜くように手を合わせ、見えない刀でロンの飛膜を斬りつけ墜落させた。

 

ティラン「ジャバッ、トウ!」

 

ジョウ「なに、今の技。」

ドン「「つばめがえし」も出来たのか。お前何か教えた?」

レナ「私何にも教えてない。あの子自分で編み出してる…」





ジョウ「じーちゃんにストーンエッジを使われたら勝てない!はどーだんで撃たせるな!」

 

ガルシア「そんなガラス玉程度が効くと思うな!」

 

ティランが放つ波動の弾丸をガルシアは腕を振るって受けるが、傷一つ付きもしない。「ぼうだん」特性は既に知られているためロックブラストに変わる技を放つが、ガルシアが足元から岩の刃を放とうと腕を振るいあげるよりも早く、ティランの手の中から青く光る波動の塊が撃ち放たれ、ガルシアの顔面に直撃し爆発の煙を起こしながら手をついた

 

ティラン「ハドダン!」

 

ガルシア「うおっ…連続攻撃だと?」

 

ドン「俺ぐらいしか勝てない親父相手に怯みを取れたなら十分勝利といえる!…今のは早業と力業!今度は皆伝しやがった!」

ジョウ「技の威力を落としたら連続で行けるんじゃないかなって思ったんだ!」




ドン「ジョウの奴、ブレイジングソウルビートに頼らない戦い方をするようになってきたな。」

ガーカス「彼らの戦い方は進化していってる。…次は誰を連れてきますか?」

ドン「…奴の説得、頼めるか?これならあいつもやる気を見せてくれるはずだ!」

ガーカス「わかりました。わかりましたとも…!」




6日目。翌日はバトルの日でもあるため今日は実質最終日だ。心にも瞳の中にも勝ちたい闘志を燃やした二人は次第に勝ち数を重ね、ドン達に追いついていく。



ドン「悪いが、勝ちは譲らねぇ!こっから50戦は全員ガチだ!」

 

955試合ジョウ471勝ドン484勝。

 

オーキス「レナ、火力と機動だ。」

レナ「わかった!」

 

ジョウ「くそっ!まだあっちが勝ってる!まだまだーっ!」

 

オーキス「まずは「アクアジェット」!」

 

ジョウ「ジェットは…いまだ!」

ティラン「…びゃっ!」



ジョウ「レナさんにはこれだーっ!「でんげきは!」」



相変わらず数字は読めないが、ドン達の方が勝利数は上で、自分達はそれに追いついているというのはなんとなくわかった。ここからの勝負は相手が倒れるまで継続され、ドン率いるチームも得意の戦術で相手することになった。レナの背中から水を吹き上げ、頭上から突撃するオーキスにジョウの掛け声でティランが後方に飛び上がり水撃の拳は地面をたたく。それを見越したようにレナが横から強襲を掛け突っ込んでくるが、両手でレナの顔を捕まえてしがみ付きながら上空に連れ去られ、雷が落とされた。




ジョウ「うおおおおおっ!」

ティラン「ジャァァッ!」

 

ドン「オラァァァァッ!」



正面から拳がぶつかり、技も技術もない殴り合い。ドンの足元を抜け背後に回った小柄のティランを大黒柱のような巨大な尻尾で振り飛ばす。右ストレートを一重で避け、火山の一部を背後で砕かせてカウンターの左ストレートをドンの顔に、ティランの胴にボディブローを撃ち返した。ドンがよろめいて後ずさりし、火口の壁へと埋もれたティランが這い出てお互いに構えた。



ドン「極限!岩石砲!」

ジョウ「ここで負けるもんか!この一撃が、すべてだ!」

ティラン&ジョウ『ブレイジングソウルビート!』



全力の一撃で島の火山が黒煙を吹き上げる。急激に温度が高まり、黒煙の中からお互いに現れると地面に手をついて乱れた息を整えた。

1000試合ジョウ500勝ドン500勝。ドンの手にあるボードにはそう書かれていた。

ドン「引き分け…。」

ジョウ「ここまで来て引き分けなんて納得いかないよね!?」

 

ドン「当たり前だ!明日の朝決戦だ、ジョウ!」

 

ドンが叫びながら撃ち放したそれはジョウの頭に落ちた。ティランがそれを拾って首を傾げる。水晶のような透明な枠のモンスターボールが渡された。ドンは茂みの方に目を逸らし、軽く頷いた。

 

ドン「おし!…テラスタルだ!そいつはお前に貸してやる!」

ジョウ「いいのー!?」

 

ドン「俺は明日、こいつともう一つの切り札を使う!ジョウ!お前に足りないのはブレイジングソウルビートに変わる程のもう一つの切り札だ!そいつを用意できなきゃお前に勝ち目はねぇ!」

 

ジョウ「Z技に匹敵する切り札…?」








リト「皆さんお疲れ様でした!お詫びと言ってはですけど、今夜はどうぞゆっくりしていってください!」

デンべえ「いやーもう腹は蹴られるわ腰は痛いわで大変でしたよ奥さん!」

ロン「錬金術なんてしてなければ水風船みたいに膨れずに済んだんじゃねーのかよ。」

 

リト「二人も来て早々バトルさせられたとかで…いつまでここには留まるんです?」

レナ「平和なバトルも久しぶりだったし、楽しかったわ。」

オーキス「船の点検が終わるまで、だろうか。」



アリィ「ねーパパやジョウ達が見合たらないよー。」

ガルシア「3人は明日の準備だろう。今夜はそっとしてあげておじいちゃんとアイス食べよう?」

アリィ「アースリィもずっと居ないのに…」

 

その日の夜。キャンプではすべてのバトルを終えた事を知ったリトが川で食事会で持て成していた。その中にはドンもジョウの姿もおらず、それぞれ違う場所で明日の作戦を立てていた。






アースリィ「・・・・・・。」

 

火山から見下ろす島は、パルデア地方の中心を囲む山脈から見た景色と似ていた。小さく明かりが照らす店内、川の方では明かりの方からにぎやかな声も聞こえてくる。後方からは地響きが近寄ってくるのも。

 

ドン「よう、ヴルスト食うか?」

アースリィ「貰っても、戦う気はないよ。」




ドン「ドラゴンがみんな行方不明になった中、唯一残ったドラゴン。お前だけどうして此処に残ったのかは知りたくもないが、ジョウと一緒に居て何か感じはしただろ?」

アースリィ「ガーちゃんが来てくれたのはうれしかった。でもお願いと言われて力を見せれるほどは…」

 

ドン「ジョウをボッコボコにしろなんて言わねーよ。これまでのバトルを見て何か胸に来るもんが少しでもあったなら、その少しをジョウに見せてやってくれ、明日7時に広場で待ってる。それじゃお休み。」







7日目の朝。

 

早朝は濃霧で島がおおわれていた。南から流れてきた寒波が夏の日差しで温められたからだ。全員が前晩の宴で泥酔し、一番先に起きたドンが地響きを立てても夢から覚め切れずテントから顔を出すものは一人もいなかった。

白い靄の中を突き進み、広場へと足を踏み入れた。観客席に突き刺した試合結果のボードの足元には、霧の中でサイホーンのシルエットがはっきりと映っていた。




ジョウ「待ちきれなくて先に来ちゃった」

ドン「準備万全みたいだな。…こっちも」

 

ゆっくりと上りつつある日差しが、霧を照らし真っ白な光の空間へと変貌させる。その中に入り込むように赤いドラゴンがジョウのカウボーイハットをくわえて取り上げ、ドンの横で振り向いた。



ジョウ「あれっ、アスリィも応援に来てくれたの?」

 

ドン「紹介するぜ、もう一つの切り札」

アースリィ「最後はアギャが相手だよ。黙っててごめんね。」

 

まだ上り始めた日が急激に明るさを増し日差しが目に入った二人は思わず目を閉じ、手で目元を隠した。その刹那、瞬きをすれば逆光で影になったアースリィが二足で立ち上がり、後頭部から伸びた触覚が地面にたれ、尾の飾りが扇状に開かれた。



ジョウ「これが本気の…アースリィ相手でも手加減しないよ!」

ティラン「あぎゃっ!」



本来の姿を見せたアースリィの力なのか、霧は強い日差しによって晴れていった。島には遠くでなく鳥のさえずりだけが聞こえる中で静かに最後の特訓が始まった。





ドン「それじゃあ1001本目!開始!」

 

ドンの合図と同時にアースリィが咥えた赤いテンガロンハットをかぶる。頭の形状に合わせ、中間が曲げられた帽子のつばがぴったりと一致した。帽子の中に収められたテラスタルボールが起動し、赤いドラゴンが青い結晶を放ちながら大地を蹴った

 

アースリィ「お前が求めて、アギャが応えるジョウ熱の切り札!」

 

ジョウ「いきなりテラスタル!?」

アースリィ「「ワイドブレイカー」!」

 

全速力で島を何週も回れる体力と脚力の持ち主は地面を走るというよりはステップを行うように蹴って接近する。振り上げた拳を地面に叩きつけティランを跳ねて回避させて、身を反転させながら鞭のように尻尾をその体へと叩きつけた。



ジョウ「ティラン!アースリィは格闘タイプだ!」

ティラン「ッ、ギャス!」

ジョウ「早業と力業で「つばめ返し!」」

 

放物線を描きながら地面を転がり、ジョウの指示を聞きながら突撃する。腰に下げた刀を抜きながら振るように見えない剣で素早く一打を、振り返しで両手で空気の剣を振り殺した。

最初の一打は踏み込みが浅く剣先で軽く喉元の袋を切りつけ、渾身の袈裟切りはしっかりと斬りつけたが、体を纏うテラスタルの光を切り裂いただけで思った以上の手応えは感じ取れなかった。

 

ジョウ「効いてないの!?」

アースリィ「テラスタル中はタイプはそれに固定化されるんだ!」

 

ドン「今の奴はドラゴン単体だ!お前も使わないと殴り合いじゃあ勝てないぜ!」



両手で構えた一撃の隙を見て、赤いドラゴンが軽快に後ろに跳ねる。頭に伸びた触角は丸めた翼の膜。それを大きく広げ、ドラゴンの冠から放つ粒子をまき散らしながら風を受けながら上空に上がっていく。「こうそくいどう」に近いそれで機動力を高め、落ちながら拳を握り締めた。ティラン目掛けて頭上から降下し、頭を殴りつけ叩きつけるように拳をふるう



ジョウ「そこ翼だったの!?」

アースリィ「よぅっと!…からの「ドレインパンチ」!」

 

ジョウ「ここで使うしかないか!「きあいパンチ」!」



持っていたパワフルハーブを咥える事で一時的に力を上げ、きあいのアッパーカットをドレインパンチに合わせるように放ち、斥力でお互いはじかれた。



ジョウ「こっちもテラスタルだ!やっぱり、やるしかないのか…!」

 

技の威力としてはこちらが勝っていた事が幸いし、ティランの反動が小さく、投げ込まれたテラスタルボールをすぐに掴んだ。纏う赤い結晶と頭から生えた燭台のような冠が光を反射する。

 

ドン(ティランのテラスタルは炎か、炎の技を使っても結局ドラゴンには効果が薄い…それに攻撃も落とされちゃ殴り合いで勝てないし、スケイルショットは尚更危ない…)

「もしかしてお前、炎技ないのか?」



ジョウ「…違う技練習してた!」

アースリィ「ジョウ君!詰めが余ったようだ、これで終わりだよ!」

 

ティランがジョウに駆け寄って何かを伝える様子を見て、そういう割にはアースリィは待ってくれた、まだ失っていないジョウの目の輝きに期待しているように

 

ティラン「…じゃう!あじゃがっ、ガッらがっ!」

ジョウ「わかったよティラン。でもとっておきならある!」

 

体を捻り胸に手を当てる。燭台の輝きが体を通して中心に集まり、それを手の中に握り締める。貯めれば貯めるほどテラスタルの結晶が体を纏い、真っ赤な結晶が右手を固めた。

 

ジョウ「とーちゃんはZ技を両手で出していたんだ、胸の真ん中に気力を貯めるため、それを片手で引き出すにはこうすれば…!」

 

ティラン「ジャァァァァッ」

ジョウ『ブレイズソウル・テラビート!』



ティランの結晶は炎の一発の弾丸となり放たれた。テラスタルの王冠を撃ちぬき、ドラゴンの首が地面に衝突して光を散りばめながら砕け、アースリィは尻餅をついて、苦笑いでドンへ頷いた。




アースリィ「…降参するよ。これなら、勝てるんじゃないかな?」

ジョウ「この技、テラスタルじゃないと意味がないってよくわかったよ。それじゃあこれで本当にジョウ出来の勝利!」



1001試合目ジョウ501勝と書き換えたドンを見て、親指を立ててくれた。

ラスタルが解け、一体化した帽子を外してジョウの頭にかぶせた。頭に合わず、右側にズレ落ちる。交換するようにドンから受け取ったボールを返した。

 

アースリィ「頑張ってね。」

 

ジョウ「うん…ティラン!バトルの準備だ!道具見に行こう!」



すべて終わるのを木の陰で見守っていたリトに気づき、後は二人に託すように去っていくジョウ達とは違う方に行く。…後はバトルで語るのみ。

 

ドン「勝つんだ、ジョウ…!」