ドン達と別れを告げたオーキス達。CNは帰り際にドンが放った言葉が気になってその後を付けて居た。
森の奥に草木を被せてカモフラージュを施した宇宙船が止めてあった。妙に横に長いアウトリガーの船体は頭の隅に記憶があった。船体下部のハッチから入っていくオーキスを見遣り、こっそりと小さくなって船体後部の貨物ハッチから侵入し後を付けた。
チビCN「リガ―級だ、本当に銀河に行ってたんだな。」
小型のファイターが収められる程の貨物室は天井まで積まれた横長いコンテナで積まれて軽い迷路を作っていた。コンテナの隙間から顔を出して通路の途中で中に入るオーキスを確認すると天井の換気ダクトに入り込んで、天井から見下ろすように入室した部屋を覗かせた。
オーキス「この調子じゃ、修行は無理だな。」
レナ「は……ぶわっ!」
作業台と素朴な作りのシーツの寝床があるだけの部屋で、レナを解放する。出てくるや否やシーツに顔だけを伸ばすように出し、くしゃみの前兆をオーキスが口を抑えて止めた。
オーキス「部屋を壊す気か;」
レナ「ここ埃っぽいし…」
会話の内容は寝る前のよくある会話に変わりは無かった。レナの首につけたチョーカーから下げた銀色の長いバトンが照明の光りを反射して、その物が自分が持っている物と似ている事にも気が付いた。
チビCN(あの首につけてるの、ライトセーバーだ。じゃあレナはジェダイに…)」
二人の会話は特におかしな話はなく、オーキスが去ると同時にダクトから立ち去ろうとしたとき、レナの言葉に身体が止まった。
レナ「…ねぇ、あの事ホントなんですか?」
オーキス「なにって…」
レナ「CNさんより先に」
オーキス「馬鹿言うな。ドンの冗談に決まってるだろ」
帰り際にドンが言った「オーキスに先にレナが取られるぞ」の言葉が気になったからこうしてついて来た。こんな事をして本心を聞くのはどうか思うが、少なくともレナの返しは残念そうに聞こえて複雑な気分にはなった。
レナ「そう…」
オーキス「でも、感謝はしている。ジェダイになろうとする姿勢には。そうじゃなかったらお前を置いて帰っていた。」
オーキス「あいつに教わりたかったか?」
レナ「教わるなら貴方が良い。CNさんに追いつきたいから」
プシューとシリンダーから空気が抜けドアが横に開く。最後に換気ダクトの通り穴に顔を向けた。気配があった気がしたがいつもの様子だ。シリンダーに空気を入れる音がすると横開きのドアが自動で閉まり、天井全体を光らせる照明がオートで消えていった。
同刻、カフェにて
ジョウ「まだ空いてるよね!カレー2つ!」
アスタ「二つ?」
ジョウ「うん!こいつ、友達のティラン!」
ティラン「ジャラッ!」
夜も深けた頃に昼間の外で元気に走り回るような子供が店の鈴を鳴らした。
連れてきたジャラランガ共にバトル後とばかりに全身を土で汚して、擦り傷があるにも関わらずに笑っていた。
後から来たドンやリト達に身体を拭いてもらい、再度店内に飛び込んだ。
ジョウ「じゃああらためてカレー2つ!」
ドン「俺もカレーで、いつもの量ね」
リト「私もドンさんと同じものを」
アテナ「…たまにはカレーも良いかな。俺と半分しよっかアリィ。」
アリィ「うん!」
いつもの入り口から近い席にドンとリトが向かい合うように座り、その隣でジョウ達とアテナが席に付いた。アテナ以外がメニューを見ないで注文と取りに来たアスタさんに告げ、最後に上から下にメニューを眺めたアテナが同じものを注文すると厨房に引き返していくのを見送った。
夜遅いのもあって温めるのに時間が掛ったが、本当に食い切れるのかと思うようなご飯の山から流れる溶岩のようにかけられたカレーが二つと、ドン達がよく食べるだけだと現実に引き戻してくれる見た目と量のカレーライスが運ばれた。ルファリーさんはこれを踊るように運べるのだからプロは恐ろしい…
ジョウ「うーん…!これが勝利の味かぁ!」
ティラン「じゃ…?」
アリィ「あ、もしかしてスプーンの使い方?」
アテナ「進化したばかりだもんな」
それぞれ個々に食べ始めるがティランは目の前に置かれたカレーライスに手を付けれずにいた。隣でスプーンを使わずにがっついて食べるジョウ、武器にもなりそうなスプーンで山を削るドンとリト、椅子を寄せてカレーを掬い口に運ぶアテナ。ティランは渡されたスプーンを握り締め、どう使うのか周囲の手元と見比べて居た。顔を傾けて食べようとする変った姿勢にアリィが気付き、隣の席から椅子を引っ張ってくるとよじ登ってティランの手を触れた。
アリィ「隣の指でこう挟んで持ってね…」
リト「大きな弟が出来たみたいね。」
ドン「美味い!ジョウ、もう一杯良いか?」
ジョウ「早っ!?…よーし」
アテナとリトがアリィのやり取りに微笑ましく見守り、隣の席では既に空にした大皿が二枚あった。口元を拭いたドンに感化されたジョウが追いかけるように残りを平らげると振り向いて店員さんを呼んだ。もう頼むまでもなく、ルファリーさんが二人の前にお代わりを交換してくれた。
ジョウ「てーいんさん!カレー2つ追加で!」
ルファリー「はーい、もうできてますよー!」
早速提供されると食いつき、好きな物に夢中になる様子はそっくりだ。またも空にした皿を前にジョウは口元を舐め、ドンは膨れた腹をボンボンと叩くとお互いに息を吐いて満足な笑みを浮かべた。
『うまーい!』
ミニッツ「ありがとうございましたー!」
ミニッツさんの声と完売したカレー鍋を下げながら笑顔で見送る厨房のスタッフ達に見送られて一行は店を出た。全員が満足した様子だったが、ジョウは大きくため息を吐いてすっからかんになった財布が転がった。
ジョウが始めての勝利で得た賞金は全員の飲食代として消えたのだ。保護者が居るにも関わらず、自分が出すと言い出したから自業自得ではある。
ジョウ「はぁー…からっぽだぁ…;」
アテナ「奢って貰って悪いねジョウ。」
アリィ「だからやめようって言ったのに…」
リト「ジョウはお金に縁がないのかもね。」
ジョウ「良いもん。カレー奢った代わりに、とーちゃんにお願い聞いてほしいんだ!」
ドン「…おねがい?」
翌日──
ジョウ「うひょーー!島があんなに小さく見える!」
レナ「もーっと高くまで上がれるわよ!」
ジョウ「あそこ、カフェが見えるよ!」
島の上空を高速で駆け抜けた。上空を旋回し見下ろす島はドンの姿が小さく見えた。
海面で浮遊して見る入り江、いつもより高い視点で風を切り高速で抜けていく森。
ボーマンダの背中にしがみついて見る島は新世界に見えた。
リト「確かに、空を飛んだ事は一度もなかったわね。」
ドン「アリィも一緒に付き合えば良かったのに」
アリィ「こうして一緒に居る方が好き。」
果てしなく広く、どこまでも上れそうな青空を独占して自由に飛び回るレナを地上から見下ろす三人。アリィはドンの肩に座って、その大きな横顔に抱き着いた。
その足元でティランは嫉妬心を感じていた。自分が居るのに飛べるボーマンダの上に居ればそれは浮気なのではないだろうか?
大きく宙返りを行い、ジョウを空中に放してやると再度円を掻くように上昇し、降下するジョウに速度を合わせを背中に掴ませるとドン達のもとに降りてきた。
ジョウ「俺ね、ティランと会ってから前みたいにすぐサーセンしなくなったんだ。」
リト「ホントかしら?」
ジョウ「ホントだって!じゃあこれからアテナさん達に絶対サーセンなんかしないもん!」
ドン「だと良いけどな。」
レナと分かれてから広場でランチだ。リトが何日もかけて用意した生地で作ったカレーパンを頬張りながら会話を楽しみ、頬を膨らませたジョウに全員が笑い、ジョウの表情が雲った。次にこうやって合えるのはいつだろか。そう頭の中に思いながら
ジョウ「………ねぇ」
ドン「ん?」
ジョウ「本当にお別れしないといけないの?」
アリィ「…ついて行っちゃダメだよね?」
ドン「……すまん。だけどお前らは二人一緒で、ティランって心強い相棒がいるじゃねーか?」
ジョウ「だったら!約束して!必ず帰ってくるって」
アリィも我慢して言わなかった事に思わず一緒に声を出してしまった。全員の手が止まり、ドンが手にしたパンをアリィに渡すと二人の頭上に手を置いて、牙を見せるように大きく、笑った
ドン「あーったりまえじゃねーか。必ず強くなって戻ってくる。」
ドン「お前らの未来はまだまだジョウ々だからな。」
『…うん!』
ついに別れの時がきた。ティランと組んだジョウがドンとバトルをして出来る事を教えてもらい、アリィは自分の身体があまり強くない事を忘れてしまう程全力で、全力でこの日は遊んだ。浜に作った砂の城や彫刻はじきに満潮で消え、思い出だけが残るだろう。真上にあった日が世界の向こうで沈み始めた日を家族全員で見送って過ごしていた。
ドン「そろそろ船が出る時間か。それじゃ、大変だと思うけど」
リト「子供の世話なら心配しないで。その代わりに…」
アリィ「着いたら手紙かいてね」
ドン「返事は必ず返すさ。」
ジョウ「……。」
ドン「…じゃあな。」
後ろの方から地震が起きたのを感じた。振り向けば時間だと言いたげにマントを下げ、肩にいくつもの勲章を付けた正装のガルシアが霧の側で待っていた。
リトに頷き、足元にアリィを抱き上げてリトに預けると立ち上がり霧に向う。
リト「良いのジョウ?最後に声を掛けなくて」
目を大きく開けて、我慢しているジョウに一言だけ呟いて去っていくドンにと気を使う。
海の方だけを向いて振り向きたくないと思う程だ。ティランが二人の様子に不安になって交互に見ている内にドンの足が止まった。
ドン「ジョウ!俺が帰ってくるまで!絶対負けるんじゃねーぞ!勝つんだ、ジョー!」
ジョウ「───!」
ティラン「ジャッ!」
身体の中に響くような張り上げた声に身体が震えた。自分の中で何かが爆発し、振り返って砂を後方に蹴り、その足元を辿るように追いかける。
しかし、それを止めたのはティランだ。ここでジョウが行ってしまえば、前日のバトルが全て無駄になる。後ろ脚に絡むように抱きつき、顔を砂に埋めるように転ばせてでもそれを阻止した。
砂だらけの顔を上げて、夕陽が背後にあるにもかかわらずオレンジ色に光って、歪んで見える霧へと溶けて消えていくドンの姿があった。歯を食いしばって涙を堪え、消えていく遠い背中にいつかは追いついて見せる。握れる拳があったらこれほど欲しかったと思う事はない程に心に決心した。
ジョウ「俺!もう泣かないし!帰ってくるまで絶対っ!誰にも負けないから―――ッ!」
霧に消えたドンに言葉は届いたのかは分からなかった。霧の中に夕陽で出来た影のような者が手を振っているように見えて、あの足音は遠のいていった。
足元で既に慣れた振動も収まり、島に静寂が訪れた。耳元で風が囁く音だけが聞こえたのは何年ぶりだろう。アリィと共に前足を振って見送ってあげると砂を振り払うように顔を振ってリト達に笑って見せた。
(次に会う時までに俺、とーちゃんみたいにカッコいい男になってみせるから…!)